船越に会えず不安と寂しさに耐えながら、何とかやり過ごしていた。

バイトもようやく慣れてきた。小学生の女の子は真面目に練習してきて優秀だった。
彼女の家族は絵に書いたような幸せそうな家庭だった。
「先生、今度私ね、ピアノの伴奏することになったんだ。だから今度聞いてくれる?」
「そう!すごいじゃない、真理ちゃん!じゃあ次のレッスンでやろっか」「うん!」
真理の笑顔はいつも曇りがない。こっちまで元気をもらえる。

「じゃあ、来週ね」と玄関でちょうど、誰かが入ってきた。「あ、お兄ちゃん!お帰りなさい!」「真理お前、声デカイよ…」

「先生、お兄ちゃん。初めてだよね?」
「そうね。水沢雪依です。初めまして」
「――あ…」真理の兄は雪依を見て、しばらく立ち尽くしていた。