いつもの見慣れたセダン。
その助手席には、晴菜ちゃんが当然のように乗っている。
彼女なんだもん、当たり前だよね。
……私が、唆したんだもんね……

後悔とも呼べないような微かな痛みが胸の奥で一度だけ、瞬いて消えていく。


私は、ひたすらに。
頬に涙が流れないことだけを念じていた。

「ありがとう、アヤ」

「じゃあね、ヒコ」

友達同士って、どうやって別れればいいのかな?
キスも、握手も、抱擁も。

何一つ出来ないままに、私たちはおままごとのような日々に別れを告げた。

ううん、きっと。
そう思っていたのは私だけで。
ヒコは何も思っていなかったに違いない。


ちらつき始めた粉雪の下、私は一人佇んで、幸せそうに去り行くセダンを見送るほかなかったのだ。

涙すら、流さずに。

【了】