リビングのドアを開ける。
すぐに閉めた。
「どうした」
「何もない。何もないけども…ね」
「だったら開けろよ」
「だぁーっ!!空気を読んでっ!空気をっっ!!!」
中には見ちゃ行けないものが、ででんっとしてる訳ですよ。
人には触れられたくないものもあるわけですよ。
部屋の前で揉めてると、リビングの引き戸ががらりと開いた。
「あたしゃ二日酔いなんだよ!!そんな人の前で騒ぐたぁいい度胸だね」
大魔王様の降臨。
母は明るい色の乱れた髪を掻きながら、ドアにもたれかかってこちらを睨んでる。
妙に顔が腫れていてまだまだお酒は抜けていないらしい。
「で」
ちらりと視線を奴に向けると吟味するように下から上まで一眺めする。
無表情ながらも、一応頭を下げる桃矢くんを見て、よしよしいい子ってしたげたくなる衝動を抑えた。
「ふーん、まぁまぁじゃないの」
母の"まぁまぁ"は最大のほめ言葉。
どうやら母のお眼鏡にかなったらしい。
「名前は?」
「一樹桃矢」
「トーヤね」
愉快そうに顔を歪めながら、母はあたしが呼び損ねてる呼び捨てをいとも簡単にやってのけた。
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