ハクバの王子

駅に着く頃にはすっかり日が落ちて辺りは真っ暗になっていた。


「暗いし、家まで送るよ。ついでだから」

「いいよ!悪いし!」

断っても、無理矢理ついて来てくれた。


その優しさが嬉しかった。


「来週だっけ?学校のオリエンテーションみたいなやつ」

「あぁ、なんか仲良くなりましょう会?」

「そうそう!」


うちの学校は入学して2週間ぐらい経った後、1日オリエンテーションと称した遠足がある。

「あんなん、ただの遠足だよな?ガキじゃねーっつうの。なぁ?」

「あははは。そうだね。でも、私遠足嫌いじゃないよ」

「そうなんだ…」

「うん。でもいつも雨だからあんまりいい思い出ないけど…」

「あのさ、それ、俺と一緒に周らね?」


思いがけない提案に、足が止まった。

「楽しい思い出にしてやるよ。遠足。なっ?」

子供っぽく笑う彼に、自然と首を縦に振っていた。

「マジで!?ありがとな、ヒナコ」

「…えっ?…今、ヒナコって……」

「あぁ…ダメ…かな?ヒナコって呼びたい」

今度は甘えた子供みたいな顔で言う。


私はやっぱり自然に首を縦に振っていた。



「行こうぜ、ヒナコ」

「うん!」




私は、前を行く雨宮君を追って小走りになっていた。