ハクバの王子

女は目の前に立った俺を見て、
ものすごい顔をしていた。


口をあんぐり開けて
真ん丸く見開いた目から
涙を流し

宇宙人でも見たかのような顔で
俺を見上げていた。



すげぇーアホずら…




思わず笑いそうになるのを必死でこらえる。


「傘ささないで何してんの?」


女はうんともすんとも言わない。


俯いてただ突っ立ってるだけ。


「もしかして、迷子?」


そう言って覗き込んだらどんどんしぼんでく。

「風邪引くよ?」

ホント、水ぶっかけたのかよ…
濡れすぎでしょ。



こいつ、絶対迷子だ。
「この道真っ直ぐ行くと金閣寺の裏に出るから」



あ、
頷いた。

やっぱ迷子か。


なんか、こいつ
おもちゃみてー。

変な奴。




「これ、使えよ。じゃあな」



俺は、なんかこいつがほっとけなくて

さっき買ったばっかりのビニール傘を
その女に無理矢理握らせた。


渡したら渡したでなんか恥ずかしくなって
走って逃げた。


『俺なんで…』


女は困った様子でなんか言いかけたけど
無視した。


『恥かしっ…俺、何やってんだ…』