芦原はゆっくりとした足取りで店内に戻った。


それとなく、店内を見回す。

ほぼ満席だ。


殆ど若いカップルか女性グループだ。



その中に一人だけ浮いた客がいる。

ブランド物のスーツを着こなして、一見すると彼女でも待っているような感じだが、芦原から見れば明らかに浮いている。

何というか、雰囲気が違う。存在が薄いのだ。
例えば、手を挙げても店員が気付かないような存在感の薄さで、しかもそれがわざとらしい。



芦原は小声で襟元に隠したマイクに囁いた。

『怪しいのが一人いるっす』


そう話しているうちに自分の席に着いた。

『芦原、お前何してたんだ?おせーよ』

『あぁ、わりぃわりぃ』

松本が肘でつつく。


『芦原さんやっと帰ってきたぁ』


芦原の正面に座っていた女の子が甘い声を出す。
芦原の頬が緩む。

『ねぇ、ねぇ、芦原さん。このワンピースどうですか?新しく買ったんですよ』

可愛い。
もう少し丈は短い方がいいが、そんなこと言えない。まぁお世辞抜きで似合っている。

そう口を開きかけたとき、神山の声が耳に突き刺さった。

『どんな感じだ?』


『見た目フツーっすね』


『…………』


芦原以外、全員の動きが止まった。