地獄から解放された日の午後九時二十五分。
 暗闇の中、のそのそと動く物体がある。
 うめき声をあげながら、ゆっくりと立ち上がり、よろよろと歩き始めた。
 「うぅぅ…」
 その体で私の部屋のものをガシャガシャと落としていって、洗面台の方へと向かって行った。
 その姿はまるで、巨大なナメクジ。
 歩くたびにズリズリと音をあげ、ひたすら机やテーブル、床に置いてあるものをなぎ倒していった。
 「アンリ・マユ…」
 朦朧とする意識の中で、私はつぶやいた。巨大ナメクジのシルエットから連想されるキャラクターを。
 って、こんな場合じゃない。
 ただでさえ、散らかっていた部屋が、見るも無残な姿になっている。
 私の頭は、まさに怒髪天をつき、スーパーヤサイ人にでもなりそうだ。
 「プリリンのことかーーーっ!!」
 気合を込め立ち上がると、ゴミの海を飛び越え、洗面所に向かった。
 「時恵!!」
 「おわぁ!?」
 巨大ナメクジに怒声をかける。
 「まーた、あんたはそんな恰好で・・・」
 「だって、眠くって、寒かったからさ」
 「なら、ほら、片付け手伝って!」
 アンリ・マユの外皮(布団)を剥ぎ取る。
 「今はヤダ」
 「いつやるのっ!」
 「せめて、ご飯食べたいっス」
 「食べたらやんのね?」
 「気持ちじゃまけないです」
 「…じゃあ、ジョンソンにでも行こうか?」
 「今日は、ダニーズがいい」
 「はいはい」
 私たちはゴミの塊となった部屋を後にし、自転車で行きつけのダニーズへと向かった。