「ただいま・・・」
 といっても、誰も返事などはしない。
 高校を卒業して、早2年。
 東京の会社に就職すると同時に、埼玉から一人暮らしを始めた。
 自分の部屋が欲しかったのと、東京に近い所に居を構えたかったからだ。
 家事なんてのは、ここしばらくやっていない。
 ・・・多分、二か月近く。
 流石に、散らかり放題、洗濯物山積みは、人としてどうかと思うが、そんなことは気にしてられない。
 今は、修羅場なのだ。
 といっても、男と女のもつれとか、そんなんではない。
 修羅場とは…原稿の締め切りに間に合わない状態のことだ。
 で、原稿ももちろん、普通のものではない。いわゆる同人誌というものだ。
 同人誌とは、簡単に言うと素人が書く漫画だ。おもに、漫画、アニメのストーリーを自分の好き勝手にいじくる。
 十二月中旬。
 印刷所は待ってはくれない。
 一刻も早く、原稿を書きあげ、印刷所に送りらなければ、即売会に間に合わない。
 最悪、コピー機をつかった、安っぽい同人誌でもいいが、年に二度のビッグイベントにはやはりちゃんとしたものを出したい。
 「あそこのサークル、コピー本だったよ」
 なんて言われたくもないし。
 そして私は着替えもそこそこに、パソコンに向かい、二次元の主となった。



 これは、私、伊藤美緒と、周りを取り巻く濃い人々の物語である。