ビタースイート

 

目を瞑って深呼吸し、思い切り目を開ける。

変わらない風景が飛び込んでくる。


一つ変わっていたのは、川崎君がうちの先生に取り押さえられていたということ。

すぐ隣には別の先生が横たわっている。
黒い水たまりができている。


川崎君が、刺した。


柵を掴む手が震え、ガシャガシャと音をたてる。
たまらず座り込む。


叫び声と悲鳴が飛び交う。

警官が川崎君に近付く。

人違いだよ。違うよ。



別の警官が無線に向かって大声を出している。

確保しました、と。



パトカーに連れ込まれる寸前、川崎君がこっちを向いて何かを言った。


ごめんね、眼鏡忘れてきた。

ごめんね、涙で見えないや。

ごめんね、私のせいだよね。





川崎君はキレちゃったんだよね。
もう耐えられなかったんだよね。
辛かったのに気付いてあげられなくてごめんね。




川崎君はもう二度と屋上に来てくれなかった。

"一人"の屋上の、腹立たしいほどよく晴れた空に囁く。

私も好き。

吐く息は白くて、空に雲ができたみたい。


最後の、ごめんね。
やっぱり川崎君は二番目に好き。
水無月君は越えられない。

もう一つできた雲は、くっついて大きな雲になった。



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