「はよーざいまーす」

今日もいつものように、彼は来た。

詰め襟の学生服を少し着崩した姿は、あの時から変わらない。



一月の私の誕生日、あの日井上の事があって以来、私は学校へ行っていない。

最初のうちは仮病で休めたが、そのうちここに通うようになった。


何をするでもなく、ただぼーっとするだけ。

不思議とそれだけで一日は終わる。
呆気なく、悔しいくらいに。




彼の名前は川崎 悠。
高校は隣の県で、家はこの近くらしい。

彼も最近学校には行ってないらしく、私もそうだと打ち明けると私達はすぐに意気投合した。



「川崎君、通学大変じゃなかった?」

「あ、そうでもないんすよ。隣の県っつっても国境近くみたいな感じなんで」


川崎君の変な話し方は私を不思議な気分にさせる。

決して正しいとは言えない言葉遣いを聞いていると、二月から一気に五月ぐらいにワープしたように、優しい暖かさに包まれる。

暖かいと感じていたのは身体ではなく心だと気づいたのは昨日の事だ。



「水原さんって水無月って人が好きなんだ?」

いきなり話が飛ぶのはもう慣れた。
逆にさっきまで私達が話していた事は何だっけ、と思わせられる。




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