「紗都?」

アキの声で現実に戻ってくる。

「何かあった?」

「昔、思い出してた」

「嫌な事?」


アキには何も隠せない。


「紗都にさ、昔どんな事があったか知らないけど、多分逃げてちゃ駄目だよ」

心が見透かされてるようで、少し怖くなった。

「好き嫌いして、嫌いなものだけ閉じ込めないで出してあげなよ」


逆に楽になるかもよ。
そう言ってアキはいつものクッキーをくれた。


心なしか、甘い。


私の中の、嫌いな私を出しても、アキはあの時の友達とは違うから、大丈夫。

言い聞かせて、深呼吸。


「ありがとう、アキ。ほんまにありがとう」



数年振りの故郷の言葉は、私を迷いから救い出した。


ありのままで、いいのかもしれない。


外では木々が秋の準備を始めていた。



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