大将の話も上の空に聞きながら、目の前に並ぶツマミと酒をチビチビ口にしていると、奥にある座敷のほうから、何やら何処かで聞いた声がした。
「だ~か~らっ!俺彼女いるっつってんじゃん!」
「いいじゃん!息抜き☆」
何が息抜きだ、私なんて息抜きすぎて過呼吸じゃねぇか、なんて心の中で呟いていると、声が聞こえていた部屋の襖が開いた。
あんな甘ったるい声は、一体どんな顔をしているものかと、興味本意に振り向いた。
「………ジャイ子……」
声の主は、何ともまぁ見事に期待を裏切ってくれました。
いや、ジャイ子が可愛いくないって言ってるんじゃないよ?
ただ。
ただ、あまりに甘ったるい声で、私の想像ではグラビアアイドルか、はたまたAV女優みたいな顔だと思っていましたもので。
…………。
「……あ…」
「……い?」
「……う?」
「……あ…」
「いや、そこは順番的に『え』って言って欲しかったんだけど。」
「き、きき恭子!」
私の小さな願いはスルーされ、いきなり名前を呼んだそいつは、紛れもなく私の部屋のお隣さんだった。
