そして今日に至ると言う訳だけれど。
「すみませーん。早くしてもらいませんか?」
気だるげなハスキーボイス。そんなに声に色を付けて言うと美声が台無しだなって思った。
「あのー。リボンの結び方が分からないんですー」
声を張り上げてドアの向こう側に居る彼に言うと、即答で返事が返ってきた。
「入って良いよなー」
「駄目ですー!!」
彼の真似と言う訳ではないけれど即答。だって、ほら部屋中に下着とかが吊るされているじゃん。
其れにこんなに早くハスキーボイスの顔を見るのはちょっと。
「ほら、時間無いんだから早く!」
「あーハイハイ。大変誠に申し訳御座いませんで御座いました」
あやふやな敬語を適当に言ってその場凌ぎ。
簡単にリボンを結んで、お姉ちゃんが使っていたメーカーと同じローファーに足を入れる。
このローファーはお姉ちゃんが使っていた物と略同じ場所と略同じ形に泥が付いていて、小石が靴に挟まっているという手の掛け様。
こんなのだったらお姉ちゃんが使っていたローファーを其の儘で使っちゃえばいいんじゃないの?とは思った。
でもやっぱり衛生上如何かなって思うかも。
わたしが身に着けているのが殆んど祖母の嫌いだった、お姉ちゃん使用そっくりのコピー商品。
ドアノブに手を掛けて押すと、久しぶりに外の空気を吸って生き返った気がした。
今までわたしは死んでいた。でも、お姉ちゃんが死んだ以上わたしは生き返ってお姉ちゃんの代わりに死んでった。
何だか一回限りのペットボトルのリサイクルみたいだな。とまで思った。
