鳥啼くいろは歌




「其れで実はいろはさんにお願いが御座います」


「いろは」と彼に名前を囁かれて心臓が高鳴った。苦い唾を飲み込んで小さく返事を返した。

「御姉さんのわかよさんの為に、学校の為に替え玉と成っていただけないでしょうか」



お姉ちゃんの替わりに、わたしが?



「そ、そんなの無理に決まっています」



わたしは即答をした。全校生徒18人の長閑な田舎の中学を卒業後、高校にも入らずにスローライフ。


目立つ様な仕事所か、自ら好んで発表さえもした事の無いわたしに生徒会長。其れに品行方正、疾風迅雷、才色兼備のお姉ちゃんの替わりに何て成れる訳が無い。



「御願いします。此方もわかよさんがいろはさんだと言う事をばれない様に精一杯尽くしますので」



一寸止めてよ。そんな声で言わないでよ。絶対この人女慣れしている。




「無理です。そんなのわたしに務まりません」


通話を切ってしまおうと携帯を耳元から離そうとした時に「制服」と唐突に彼が言った。



「制服。ブレザーで、結構可愛いって有名なんですよ」


夢だった、ブレザー。頭の中で顔の見えない人形の様な女の子がアニメに出てきそうな可愛らしい制服を着て一回転。




「勿論、学費や入学費、給食費から全部タダです」



「其れに貴女には“指導係”という者が付いて居ます。貴女は其の方の指示に従うだけで大丈夫なんですよ」


もう駄目、もう限界、やっぱりわたし押しに弱い。



「分かりました分かりました。やればいいんでしょ?やれば」