紫乃に教えてもらった道をたどっている。公園前の道路。
角を幾つか曲がり、商店街へ出た。夕飯の買い物客で賑わっている。
店主とお客の掛け合いが聞いていて楽しい。だから私は商店街が好きだ。

その商店街の終わりの角を曲がると、細い路地に入った。
人ひとりがやっと通れるくらいの細さ。
その上、湿気臭くてじめじめしている。

「なんか…不気味だ…。」

つい独り言を漏らしながら、一本道を突き進んでいくと、急に広い庭付きの一軒家に着いた。
庭には井戸があり、古ぼけてはいるけどまだ使われているらしい。

お店は二階建てになっていて、ロマネスク様式の建物になっている。
だが壁にはびっしりと蔦がはびこっており、お化け屋敷を思わせる程だった。

「微妙に良い趣味してる…。」

お店の外見はともかく、ロマネスクに心を奪われた。
そのまま惹かれるように、お店の中へと入っていく。

チリリンとドアに付いている鈴が可愛らしく鳴り響く。
お店の中はとても静かで、靴音がコツコツとよく聞こえる。

品物棚に置かれているものは全部綺麗で、誇りをかぶっているものはひとつもない。
商品は文房具から本、お菓子にティーセットまで様々なものがある。

「変な店…。」

意外に広い店内を歩き回りながら、ふと漏らした言葉。

「初めて言われたよ。変な店なんて。」

突然カウンターの方から声がした。でもたいして驚きはしない私。
見ると、20代前後の若い男性が楽しそうに笑っていた。

「あの、ごめんなさい。変だなんて言って…。」

カウンターにいる男性は白くて縦線の入ったYシャツに、上から黒いエプロンを着ていた。
何でエプロン…?と、まじまじ見ていたら視線に気付いたらしく、私ににっこり微笑みかけて

「さっきまで夕食を作ってたんだ。それに、滅多に聞けない率直な感想だからね。誤る必要はないよ。」

と、優しい口調で言った。
人の第一印象というものはアテにはならないと、人はよく言う。
この男性もまた、そのひとりだった。