αおまけα


とある日、私はいつものように深翠さんの手伝いをしていた。

「あの、深翠さん…。」

カウンターで新聞を読んでいる彼に声をかけた。

「ん?なんだい、澪ちゃん。」

新聞から目を離さずに問い返してくれる。
毎日こうしてのんびり過ごしている。
お客さんは多くても、1日に10人程度。
だから暇と言えば暇だったりする。

「ずっと気になってたんですけど…。」

私は今更な気がして、本当は聞こうか迷っていた。
でもやっぱり、知らないわけにもいかない。

「このお店の名前って…なんですか?」

そう、店を手伝うようになってからも、一度も店の名前を聞いたことがなかった。
入り口に看板や立て札があるわけでもない。
ましてや表札も。

「あれ、知らなかったっけ…。」

新聞を閉じ、少し寂しそうな顔をした深翠さん。
やっぱ知らないのはまずいよね…。

「すみません。聞くタイミングがつかめなくて。」

私は恐る恐る深翠さんに近づいた。
するといきなり私の手を引っ張り、自分の膝の上に座らせる。

「み、深翠さん?」

怒られるか、ガッカリされるか、呆れられるか、不安は浮ぶほど身を震わせた。

「この店はね・・・」

深翠さんが私の右耳に囁いた。
この店の名前。

「ええぇーー!!??」

店中に響いた私の悲鳴は、彼の唇によってそっと遮られた。



幸せをあなたと噛み締めて、誰も知らないふたりの秘密を守る。
いつまでも、いつまでも。


ねくすと→ATOGAKI