「ごめんね。一度も抱いてあげられなくて」
どこか懐かしい優しい声が耳に心地良く響く。
まるで子守唄を聞いているような穏やかな気持ちになってゆくのが不思議だった。
「ごめんね。たくさん愛してあげられなくて。寂しい時に傍にいてあげられなくて。哀しいときに抱きしめてあげられなくて…それから…」
大粒の真珠が零れ落ち、止め処なく流れるのを拭うこともせずに懺悔する姿に、暁は堪らなくなって母を抱きしめた。
茜は一瞬大きく目を見開き、震える手をゆっくりと暁の背に回した。
背中に伝わる小さな手の温もりにキュッと胸が締め付けられる。
その時、暁の中にたった一度だけ触れた母の手の温もりが、ハッキリと蘇ってきた。
生まれたばかりの自分の背に添えられた温もりが少しずつ失われていった哀しい記憶は余りにも衝撃的で、暁の胸を鋭い痛みで貫いた。



