【長編】ホタルの住む森


「茜…本当に君なのか?」

長い沈黙を破ったのは、搾り出すような晃の声だった。

呼吸が僅かに音を纏っただけの擦れた声だったが、それは静かな部屋の空気を振動させるには十分だった。

16年間どんな景色の中にも追い求めていた愛しい影が、今、目の前に立っている。

その事実がまだ夢のようで、触れると消えてしまうのではないかと怖かった。

「ええ、そうよ。晃」

「…陽歌は茜の生まれ変わりなのか?」

茜は微笑みながら首を横に振った。

「いいえ、違うわ。陽歌は陽歌よ。私は彼女に角膜を提供したの。今の私は彼女の瞳なのよ」

晃と暁は驚いて息を呑んだ。右京も予想していたとはいえ、実際に茜の魂を宿った陽歌を前にして直ぐに言葉が出なかった。

「私にはどうしても叶えたいことがあった。陽歌の瞳を借りてその願いを叶える為に戻ってきたの。蒼には解るわね?」

蒼は黙って頷くと、茜を抱きしめていた腕を緩めて暁を振り返った。

茜の背に手を添えて暁に向き直ると「あなたのお母さんよ」とニッコリと微笑んでその背を押す。

暁は言葉が見つからず、少しずつ近づいてくる母と呼ばれた女性に、懐かしい天使の面影を重ねて見ていた。