【長編】ホタルの住む森


「陽歌さん? …陽歌…陽歌っ? しっかりしろ、大丈夫か?」

晃の声に我に返った陽歌は、自分が玄関に立っており、晃に支えられていると気がついた。

長いように感じられたがほんの暫くの事だったようだ。

夢から覚めたように周囲を見回すと、分娩台も白い世界もなく、自分が生きていることを実感し震えが止まらなくなった。

茜の最期を体感した事は陽歌にとって自身が死んだにも等しく、そのショックは大きかった。

意識がハッキリするにつれ、茜の感情が自分の深層部に沈んでいくのを感じる。

『おまえ自身が茜さんだ』と拓巳に言われた時、陽歌はまだ戸惑っていた。

だが、茜の死を生々しく経験し、陽歌の中で何かが変わった。

今は茜が自分自身であることをハッキリと認め、受け入れる事ができた。

だがそれは、最期の瞬間に彼女が願った晃の幸せが何であったかも、同時に知ることでもあった。

茜の最期の願いが『現世で巡り逢うべき運命の女性』である自分と晃が愛し合うことだったという事実は、陽歌の心に暗く影を落とした。