泣きじゃくる陽歌を茜は優しく抱きとめ、時間を掛けて心を解していった。
やがて太陽が西に傾き、病室が朱に染まる頃、落ち着きを取り戻した陽歌の髪を弄りながら、茜は静かな声で言った。
「陽歌ちゃん、私があなたに目が治る魔法をかけてあげるわ」
「魔法? エイプリールフールの冗談なら、からかうのはやめて。魔法を信じるほど私は子どもじゃないわ」
「からかっている訳じゃないわ。あなたに魔法をかけてあげる。きっとあなたの目は治るわよ」
「………魔法があるならパパやママだって生き返るわよ。…もし本当にこの目が治ったらどんなことでもしてあげるわ」
「…ホント? じゃあ本当に目が治ったら私の願いを叶えてくれない?」
「いいわよ、治せるものならね。願いって何?」
「私の大切な人に会って欲しいの。そして私が出来なかったことを代わりにして、言えなかった言葉を伝えて欲しいの。できるかしら?」
「そんな事? なんだ簡単じゃない。いいわ約束する」
陽歌はこのとき茜が冗談を言っているのだと思い、半分投げやりに返事をした。
今思い返せば、バカにしたような物言いで随分失礼な態度を取っていたと思う。
だが茜はそんな陽歌を抱きしめて、「ありがとう」と言った。
そして、最後に会った日。
病室を去る前に、茜はまるで念を押すように、もう一度陽歌に約束を確認した。
茜を帰したくなくて拗ねていた陽歌は「またか」と軽く受け流し、「いいよ。約束ね…魔法使いさん」と冷たく答えてしまった。
そして拗ねたまま泣きながら眠ってしまい、そのまま約束を忘れてしまったのだ。
魔法の本当の意味も知らず…。
茜の愛情の深さにも気付かず…。



