【長編】ホタルの住む森


昨日、思わず口付けてしまったから気になるだけだ。

茜の記憶を持つ彼女だから、他の男といる事実に動揺しているだけだ。

必死に言い訳している自分に気付いて、まるでこれでは恋煩いだと苦笑する。

茜の記憶について知りたいと思っているから、彼女の事を考えただけでドキドキするのだ。

茜が一瞬でも還ってきたような気がしたから、婚約者がいると知ってこんなにも寂しいと思うのだ。


別に彼女自身に恋しているわけじゃない…。



「…恋なんてありえないだろ?
昨日会ったばかりの彼女に、しかも婚約者がいるのに…」

「はぁ? 誰に婚約者がいるんだって?」

独り言のつもりが、いつの間にか背後にいた右京に問われ、驚いて振り返った。