【長編】ホタルの住む森


メッセージに気付くまで10年余りも待ち続けた茜。

本当なら11年前、18歳のときにその約束は果たされるはずだったのに、全てを忘れた陽歌を茜はどんな思いで見守り続けていたのだろう。

頬を滑り落ちたガラスのような哀しげな涙を思い出し、陽歌は申し訳ない気持ちで一杯になった。


「その後、茜さんには会っていないのか?」

「茜さんはその日の夜病院に運ばれて、明け方自分の命と引き換えに男の子を出産したそうよ。
彼女と会ったのはあの日が最後なの」

自分で言った台詞に胸を鷲づかみにされるような痛みが走った。

拓巳も痛ましげに眉間に皺を寄せて目を閉じた。

「茜さん…どんな想いで逝ったんだろうな。俺だったら死んでも死に切れないだろうな」

「そうね。私だったらきっと心を残してしまう。愛する人を残し、生まれたばかりの赤ちゃんを抱く事も出来ずに逝かなくちゃいけないなんて…」