【長編】ホタルの住む森


「彼女はあなたがもう一度光を取り戻して本当の笑顔を取り戻すことを心から願っていたのよ。
4月5日。最後に彼女に会った日の事、覚えている?
彼女の言う事だけは素直に聞いた陽歌ちゃんが珍しく帰らないでって駄々をこねた日の事」

「ああ…覚えています。彼女に会った最後の日ですよね」

「…ええ、泣きながら寝てしまったあなたに悪いことをしたと言っていたわ。
夜になって陣痛が始まった彼女は、日付が変わったころに病院に運ばれてきたの。
彼女は頑張ったわ。発作を起こす事無く最後まで出産に耐えて、明け方男の子を出産したの」

良かった、と陽歌はホウッと溜息を漏らしたが、幸江はその時を思い出すように苦しげに続けた。

「でもそれが限界だったわ」

「え…?」


テーブルの上でグラスの中で氷がカランと鳴った。

パキン…と心の中で何かがはじける感覚が、氷の割れる音と重なって妙に大きく聞こえた。