【長編】ホタルの住む森


その時、背後から誰かが玉砂利を踏みしめて歩いてくる音が聞こえた。

徐々に近づく足音に、もしかして晃かもしれないと、鼓動が早くなる。

暴れる胸を押さえ、ゆっくりと振り返る。

だがそこにいたのは晃ではなく、長めの黒髪を後ろになでつけ、銀色のフレームのメガネをゆっくりと外し笑いかける右京だった。

「茜って結構足が速いんだな。
すぐに追いつけると思ったのになかなか見つからなくて焦ったぜ」

「…ごめんね、心配掛けて」

「いいや。それより少しは落ち着いたか?
晃のヤツが暴走して悪かったな。
あいつがあそこまで物事に執着するのは本当に珍しいんだ。
それだけ茜を愛しているからだって解ってやって欲しい」

「…うん、解っているよ」

「お灸を据えてきてやったから、今頃正気に戻って凹んでいると思うぜ」

ケラケラと笑う右京に釣られて茜の表情も緩んだ。

「結婚がイヤだなんて…そんな風に考えるとは思いもしなかったわ」

茜はポツリと呟いた。