【長編】ホタルの住む森


「…今日のお前は俺が知っている中でも最高に最低な男だよ、晃。
どうして茜の気持ちを考えてやれないんだ?
結婚式は二人が未来を誓う儀式で一人でするものじゃない。
お前だけが熱くなってどうするんだよ」

右京はそういい捨てると、窓の外へと視線を移した。

徐々に広がり始めた雨雲は、既に今朝の青空を残さず埋め尽くしている。

今にも泣き出しそうな鉛色の空に雨の気配を感じた右京は顔色を変えた。

「…ヤバイな、降り出しそうだ。茜を呼び戻さないと、雨に濡れて風邪でも引いたら命取りだぞ」

三人の間に緊張が走る。

部屋を出ようとした晃を、右京が肩を掴み引き止めた。

「待てよ、晃。今のお前が迎えに行っても茜は戻らない。
俺が行くから少し頭を冷やせ。茜はお前を否定したわけでも、結婚を拒絶したわけでもない。
彼女が何を言いたかったのか考えてみろ。それが解ったら迎えに来い。
どれだけ考えても解らないヤツに茜を幸せにすることなんてできないぜ。
その時は茜を諦めろ。…後見人の息子として茜を幸せにできない男に彼女を渡すことは出来ない。親父だって同じ事を言うだろうからな」