「誰だと思った?
そんなに簡単にドアを開けるなんて、襲われても文句は言えないぜ?」
ゾクリとする言葉と共に、唇が押し付けられた。
必死に逃げようとしても強い力で肩を押さえつけられ、片手で後頭部を押さえ込まれては、女の力で抵抗できるはずもなかった。
恐怖がせり上がってくる。
どうにか動かせる指だけで必死の抵抗を見せ、手が触れた部分に強く爪を食い込ませたが、拓巳は微動だにせず、腕は緩むどころか益々強くなった。
息苦しさに涙が滲む。
遠のき始めた意識の中、晃の顔が脳裏に浮かんだ。
「…い…っや…ぁっ!」
陽歌自身何をしたのか解らなかった。
ただ夢中で抵抗して何かに噛み付いてしまったらしいと、口の中に広がる鉄の味と緩んだ腕で理解した。
唇を伝う生暖かいものを拭うと、手の甲が血で染まった。
噛み付いたのが拓巳の唇だったのか自分の唇だったのかさえ解らないほどに神経が高ぶって、痛みは感じなかった。
数歩飛びのき、拓巳を睨みつける。
そこにいたのはいつもの明るい拓巳ではなかった。
苦しげに顔を歪め、哀しそうに自分を見つめている男を、陽歌はまるで初めて会った人のように見つめた。



