『…っくしょう! マジかよ?
陽歌逃げんなよ。今すぐそこへ行くからな』
「ちょ…ちょっと待ってよ。
私がどこに泊まっているかなんて知らないくせに…」
『バカかお前。何年旅行会社に勤めてんだよ。
端末の宿泊手配記録見りゃそんなモン判るに決まってんだろ?』
言われてみればその通りだと、陽歌は自分が明らかに普段の冷静さを欠いていることを知った。
この状態で拓巳に会っても、とても冷静に今日の出来事を説明できる自信は無かった。
しかも明日は晃と約束があるのだ。記憶の事でどうしても会って欲しい人がいるのだと言われ、断ることができなかった。
「…ごめん。心配してくれるのは嬉しいんだけど来てもらっても困る。
拓巳には直接関係のない事だし、まだ分からないことだらけで、私も混乱しているから…今は誰にも会いたくないの」
『……』
「ごめんね本当に。
帰ったら私から連絡するし、ちゃんと二人には説明するから。じゃあね」
返事を待たず電話を切って携帯をベッドの上に放り出す。
二人の気持ちは嬉しいが、今は自分の中のもう一人の感情を持て余して混乱している状態だ。
普通の精神状態ではないボロボロの自分を誰にも見せたくなかった。



