「如月さんはこの土地は初めて?」
「いいえ。実は子どもの頃、この町に住んでいた事があるんです。
…もう16年も前になりますけれど、その頃はこんなに素敵な場所が近くにあるなんて知りませんでした」
「16年前か。その頃はまだここは診療所じゃなかったからね。
今のように庭を一部開放したのは僕が父から譲り受けてからなんだよ」
「そうなんですか。だから知らなかったんですね。…知っていたら一度は両親と来ていたと思います。両親は夜景が大好きでしたから」
「今度はご両親と一緒に来るといいよ」
「…いいえ。両親は私が中学生になる春に事故で亡くなりました。
この土地を離れたのも伯母に引き取られたからなんです」
「ああ…ごめんね。悲しい事を思い出させて」
晃が眉を潜めて言うと、陽歌は「もう随分前のことですから」と微笑んでみせた。



