晃はまだ何かを思い出そうとするように辺りに視線を彷徨わせている、情緒不安定な陽歌を気遣わしげに見つめていた。
差し出されたコーヒーを口にして、ようやく「美味しい」と表情が和らいだ事にホッとして、自分もカップへ手を伸ばす。
だがその手はカップに触れる直前にピクリと止まり、視線は陽歌に釘付けになった。
陽歌は一旦カップをテーブルに置きミルクをコーヒーに浮かべた。一旦沈んだミルクが浮かび上がって琥珀の上に白い層を作る。
彼女はそれを混ぜる事なく二層に重ねたままゆっくりと口に運んだ。
ミルクを混ぜずに浮かべて楽しむ独特のコーヒーの飲み方。
カップを持つときにピンと小指が伸びる癖。
一口飲むたびに香りを楽しむように瞳を閉じる仕草。
その全てが茜と重なり、晃は驚きの余りカップを手にすることも忘れ、陽歌を凝視していた。
視線を感じたのか、陽歌が顔を上げた。
視線が合うと照れたように肩をすくめて微笑み、再びコーヒーへと視線を戻した。
一つ一つの仕草が余りにも似ていて、まるで茜がそこにいるようだった。
決して顔が似ているわけではない。
それなのに、彼女の全てが愛しい影と重なり目を逸らすことができない。
指の震えを誤魔化そうと、ギュッと手を握り締める。
晃はカップに触れることが出来なかった。



