涙が頬を伝い、意識が浮上してくる感覚。

視界が開けると、そこには見慣れない天井があった。

慌てて体を起こし辺りを見渡した陽歌は、窓際に立っている男性に目を惹かれた。

そこには長い間夢に見続けた彼が、少し年令を重ねて、穏やかな顔で微笑んでいた。

「目が覚めましたか?
僕はこの診療所の医師で高端と言います。君の名前は?」

「如月 陽歌です」

「如月さん、倒れたこと覚えている?
少し貧血気味のようだね」

「…最近は残業続きだったもので疲れていたのだと思います。
…ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「迷惑? クスクス…ここは体調の悪い人が来る場所だよ?
倒れたから迷惑だなんて考えたことも無いよ。外は酷い雨だし、後で家まで送ってあげるね」

「家はこの辺りではないんです。
友達から見せてもらった写真の風景を見たくて、有休を取ってきたんです。
暫くは市内のホテルに滞在してゆっくりと過ごす予定です」

「じゃあホテルまで送ってあげよう。
もう少しここで休んでいきなさい。必要なら元気の出る特大の注射でもしてあげようか?」

晃の冗談に表情の硬かった陽歌にもようやく笑みが零れた。