「いい加減俺を好きになれよ。
…俺はもう…夢に喰われているお前を見ていたくない」

甘い吐息と共にゆっくりと離れながら自分に言い聞かせるように拓巳が囁く。

「…もう少しだけ我慢してやるから、そろそろ現実へ戻って来い」

拘束する腕を緩め、陽歌を見つめる瞳の中には、これまでに見たことの無いほどの真剣な気持ちがあった。


これまでの告白もカムフラージュなどではない。

拓巳はいつだって本気だったのだと、改めて思い知らされた。

陽歌は拓巳の真剣な気持ちを受け止めることができず、静かに視線を逸らすことしか出来なかった。

拓巳を好きになれたら…

もしかしたら、私の中で何かが変わるのかもしれない。

彼は私を幸せにしてくれるのかもしれない。


一瞬そう思ったことは否定できない。

だがどうしても頷くことはできなかった。

唇が重なったと思った瞬間に思い浮かんだのは、やはり会った事の無い夢の中の彼だったからだ。


あなたは…だれ?

何故私の中に住んでいるの?


拓巳を好きになれば、私は現実の中で幸せになれるのかもしれない。

なのに何故、こんなにもあなたに惹かれるの?


黙り込む陽歌に苦笑しながら、拓巳は優しく「待ってるから…」と言った。