「僕が指輪をあげたあの日から茜はずっと暁を身体の中で意識していたのか?」
「そうよ、茜がどれだけの愛情をおなかの中の暁に注いできたか…。それは晃君が誰よりも良く知っているでしょう?」
「ああ、そうだね。知っているよ」
晃は静かに目を閉じると在りし日の茜の姿を目のまえの光景に重ねていった。
ソファーに座り大きく膨らんだおなかに愛おしげに微笑み語りかける茜。
おなかを蹴る赤ちゃんの様子が知りたくて、茜が『動いた』と言う度に飛んでいって茜の示す部分を触った思い出が胸に鮮やかに蘇ってくる。
あの時晃は漠然とした未来を夢見ていた。
赤ん坊が生まれたら茜と三人で暮らしたいと淡い夢を見て、母子共に無事出産を乗り越えてくれる事だけを願っていた。
茜が母親として暁を抱き、幸せに暮らす姿だけが、母としての姿だと思っていた晃は、茜が既にあの時母親としての自覚があり、おなかの暁に母として接していたと言う事実に衝撃を受けていた。
そのことに晃は言い知れない感動を受け、愛しさと切なさで心が震えて止まらなかった。



