【長編】ホタルの住む森


「君の忘れ形見はやんちゃで、悪戯ばかりして…最近は僕の手に負えないんだ。
反抗期なんだろうな。ねぇ?こんな時君だったらどうしただろう?」

答えは無いとわかっていても微笑む茜の写真に向かって呟いてみる。

返ってくるのは静かな雨音と規則正しい暁の寝息だけだ。

「君が傍にいてくれたら…そう思うのは泣き言だよね」

窓の傍に立ちカーテンを僅かに開けると暗闇の中に部屋の灯りを受けて銀の雨粒がキラリと光った。

今夜は君の好きだった星空も見えなければ優しく微笑む月も姿を隠している。

「僕は…一人で暁を育てていけるのかな?
だんだん自信が無くなってきたよ」


こんなにも君を恋しく思うのも

自分に自信がもてないのも

思い出が迫ってくるような切ない雨音が響くからだろうか。

静かな雨は君の思い出を連れてくる。

孤独な夜は君の笑顔が切なくて…

鮮やか過ぎる思い出を引き出しては愛しさを抱きしめて眠る。

茜、僕は怖いんだ。

暁の成長の早さに僕はついていけない。

僕の心はあの日成長を止めたまま。

君と過ごした幸せな時間(とき)の中に心を置き去りにしたままだから…。