「お前と話すことなんてない。」

そういって,
真人は一方的に電話を切った。
そんな真人の態度は,当たり前だった。

私が,
真人に許してもらえるはずはなかったのに,

一度だけどうしようもなくて電話をかけてしまった。

いつも私の味方でいてくれた真人を,
いつも私を愛していてくれた真人を

裏切ったのは,私なんだから・・



そう,私と真人は,
私が違う人と結婚した時点で終わったんだから。

真人への想いは,
私の心の奥に秘めたまま,
生きていこうと決めたんだから。


そんなことを思いながら,
車は何もない緑の中を走って,
そのまま海沿いの道にでた。

町の中では生ぬるく不快に感じた風も,
海を渡ってくる風は,
すこしだけ私の心にさわやかな風を
送ってくれた。

後ろ座席に腰をかけているモモも,
窓から首をだして,風に耳を流して楽しんでいた。



少しずつざわついていた心も
落ち着きを取り戻しつつあった。

もう真人に会わなくなって,
10年以上も経っているというのに,

私の心の中には
まだ真人が住み続けていることに,

真人を
昔の男の一人として
考えられるようになるのは
いつになるのだろうか。