二度目にライブハウスの入り口をくぐった時,
午前中の静寂はもう跡形もなく多くの人でごった返していた。
そこは熱気とアルコールの香りで満たされ,
ライブ会場を大きく包み込む音楽の響きが
もうとっくに忘れていたライブの臨場感を鮮やかに思いださせてくれた。

どれくらいの人が集まっているんだろう。
真人の知り合いから,ライブ仲間,それに同級生まで
100人近い,いやそれ以上の人がこの会場を埋め尽くしていた。

「倫子じゃないの。久しぶり・・・」
何人かが親しげに声をかけてきてくれたが,
10年前から一切の連絡を絶っていた私には,誰だか分からなかった。
愛想笑いと適当な相槌を打ちながら,ようやく楽屋にたどり着いた時は
どっと変な疲れで,身体が重く感じられた。

そこにあったソファに深く腰掛け,身体を預けると
私は眼を閉じた。
そしてライブ前に,いつも感じる高揚感が静かに立ち上ってくるのを待った。
右手にあの指輪を握り締めて・・・。


その時だった。
私の額に,優しいkissがふってきた。
昔と変わらない,真人からもたらせる頑張れっていうkissだった。
静かに瞼を上げると,そこには紛れもない真人が
私の大好きな笑顔で立っていた。

「音羽,いくぞ。最高のライブを楽しもう。」
そういうと,私の手をとってステージ袖に向かった。

きっと私にとって人生の中で一番最高なライブになる。
そして,私にとって 人生で最後のライブになる。

真人とつないだ手から,声にならない愛情を感じながら,
私を導いてくれる頼もしい背中に安心感を感じながら,

音楽が私たちを結びつけてくれる
最高のスポットライトの下へ。