「真子。お風呂は?」

「後にする。
 バイオリンを弾いていたいから・・・」

真子はまるで大人のような言葉で話をする。

小さい頃から
あちこちのバイオリンの先生の
レッスンを受けてきて,
大人の世界を早くから
知りすぎたせいか,
周りの子どもよりませていた。

そんな真子は
一人でこのまま自分の人生を
切り開いていけるような
力を持っているようだった。

「じゃ,適当にしなさいね。
 お母さんはお風呂に入るから。」

そういうと,私は浴室へ向かった。

鏡に自分の裸を映すと,
子どもを生んでから
少したるんでしまった
ウエスト周りに眼がいった。

肌のハリも年々落ちているのは事実で,自分が歳をとって現実を目の当たりにした。


こんな自分の姿を真人には見せられない。

じゃ,どうして渉ならいいんだろう。

それは,

きっと渉との間には恋愛感情がないから・・・

ただ虚しい心を埋め合わせるための時間つぶしだから。

そう思いながら,
湯船に身体を沈めた。

静かに眼を閉じると,
遠くから真子の弾くバイオリンの音色が心に浸み込んでいった。

バッハのカノン・・・

教会の音色だった。