「着いたわ・・・それじゃ。」

私はハンドルを
ギュっと握り締めたまま,
目の前に視線を泳がせていた。

自分の手が,動揺で震えないように
爪のあとが掌につくぐらい
力を入れていないと,
涙まで溢れてきそうだったから。

早く,
真人に車から降りてもらわないと,

私は極限状態だった。

どれくらいの時がたっただろうか。

「音羽・・・・無理するなよ・・・」

その優しい声が
静かにゆっくりと体中に
浸み込んできて,

私はもう自分の気持ちに
嘘をつけなくなっていた。

その瞬間,

私は真人にしがみついて
声をあげて泣いていた。

10年分の涙が次から次に溢れてきて,どうしようもなかった。

おいて行かれた寂しさと悔しさや恋してて恋しくて切なかった想いや会いたくて会いたくて身が焦がれた想い,

いろんな思いが堰を切ったように
涙になって私の瞳から
溢れてくるのを止められなかった。

真人はそんな私をずっと抱きしめて
背中をさすっていてくれた。

真人と別れてから,
感じることのできなかった
安心感がそこにはあった。