「音羽,その指輪・・・」

目の前には,
真人が驚いた表情で
立ちすくんでいた。

「真人。
 どこまで送っていけばいい?
 尚登さんの家でいい?」

私は,
真人の言葉に対する答えを出さず,
運転席に乗り込んだ。

そして,
そのネックレスを
また服の中にしまいこんだ。

真人も何もいわずに
助手席に乗り込んだ。

尚登さんの家まで,
なにも話すことなく時間が経っていった。

きっと,勘のいい真人のことだから,
私の気持ちを察したんだろう。

そう,
ネックレスのチェーンにつながれていたのは,

真人にもらった
最初で最後のプレゼントの指輪だった。

まだそんな指輪を
肌身離さずにもっている私を,
真人は呆れただろうか。

いまだに,
真人のことを想っている事に気づいただろうか。

だけど,
それを口にする勇気は私にはなかった。

もしも口にしてしまえば,
この想いに辛うじてかけている箍が外れてしまう。