まだ春とは言えない厳しい寒さの残る季節、黒いシャツ姿の従業員が忙しそうに行き交う居酒屋のある一室。


その白い襖を開けると手持ち無沙汰にメニューをいじりながら座っている雪がいて、懐かしさに自然と顔がほころぶ。


「夏遅い!一人で全然落ち着かなくて参ってたよ。早く座れって」


「はは、久しぶりだな!ちゃんと会うのってどのぐらいぶりだ?」


俺をせわしなく手招きする仕種に笑って、デカいテーブルに財布と携帯を置き雪の正面に胡座をかいた。


「あの冬の墓以来だから…、うわっ3年以上経ってるよ!ったくちっとも顔も見せないで冷たい野郎め!」


席について早々プリプリと怒る雪を見てまた笑ってしまう。


「お前見た目は冬なのに性格俺とかぶり過ぎだっつーの。とにかくまず一言言わせてくれよ」


そう言って俺が真顔になると騒いでいた雪がふと身構えた。


「遅れたけど、結婚おめでとう」


しみじみと感慨深く言ったその言葉に雪が照れたように笑い、静かな雰囲気が漂いだす。


「ありがとな。何年もかかったけどあいつと二人で兄さんの事も乗り越えたしさ。今すげー幸せなんだ」


はにかみながらもどこか真剣な顔をした雪が少し俯いて話を続けた。