こんなに全力で走ったのは何年ぶりだろう。
準備運動もせずにいきなり体を動かして
大丈夫だろうか?
心配が後からついてくる。
野球帽との距離が心なしか開いたように
思える。

「無理かな・・・ハアハア・・・」

息があがってきた。
それにしても奴もそんなに若くはないと
思うが、疲れないのだろうか。

ふと思った。

ひょっとしたら奴は中学か高校時代に
陸上部に所属していたのかもしれない。
そしてインターハイに出場し、
そこそこの成績を残したのかもしれない。
だから中学、高校と文化部に所属していた俺なんか
とは比較にならないほどスタミナがあるはず・・

でもまてよ?

文化部に所属していた俺より速いからと
いってインターハイ出場というのはいくら
想像だからといって飛躍しすぎではないだろうか?

インターハイ・・・

いつしか二人は商店街の中に入った。
魚屋、果物屋がチラリの視界をかすめる。
スーパーの攻勢の及ばない密集した小道を
人々の視線を惹きつけながら走り続けた。

野球帽の後姿が幸江の後ろ姿に重なった。
高校2年の夏、うだるような校庭に意識がとんだ。

長距離をやっていた幸江。
身長167cmの赤いブルマーが似合う筋肉質の17歳。
全身汗だくになりながらトラックを疾走する姿を
同じく全身汗だくになりながらゴールポストの
隣に座りながら眺めていた英語部だった俺。
日が傾きかけた校庭には数人の生徒がいるだけだった・・・