俺は奴の後を追ってここにたどり着いた。
年齢不詳、サングラスをかけ、野球帽を
被ったその姿は、どこからどう見ても不
審者そのものだった。

そんな俺の考えなどおかまいなしに、
奴は人ごみをかき分け、改札を出て
交番の前を堂々と通り過ぎていく。

警官の目がチラリと彼の姿を追うが、
見て見ぬ振りをするかのようにすぐに
視線を外した。

そして外した視線の先には俺がいる。
一瞬警官と視線が合った。
反射的に目をそらす。
安物のスーツを着た俺が疑われる訳は
ない、そう自分に言い聞かせた。

警官が俺に向かってゆっくりと歩いてきた。

「くるなよ、くるなよ・・・」

そう呟きながら俺は速度を緩めずに
そのまま奴を追跡する。
警官との距離が詰まる。

突然野球帽が走り出した。
(しまった!)
心の中で思わず叫び、警官の制止を
振り切り全力で奴の後を追った。

「おい、待て!」

警官は二人に増え、俺を追いかけて来た。
俺は前を向き全力で走る。
野球帽は物凄い勢いで走っていく。

信号を無視し、車をかわし、
追走劇は幕を開けた。

「おい!」

後ろで声が遠ざかる。
赤信号で戸惑った警官達が立ち往生でも
してるのだろう。
俺は構わずに走り続けた。