チョークの粉で汚れた黒板の隅。ふと、美幸の目がひとつの場所に留まった。
そこに並んでいたのは、伝言でも連絡先でもない、一節の『詩』のような言葉だった。
『時代は音も立てず進んでいく、僕たちはもがきながらも生きていく』
誰に宛てたわけでもないその文字を読んだ美幸は、わざとらしく手を口元に当てて、クスクスと小さく微笑んだ。
まるで、自分と同じように時代に取り残され、不器用にもがいている「誰か」の呼吸が、そこから聴こえたような気がしたからだ。
(こんなところに詩を書くなんて、どこかの自意識過剰か、売れないアマチュアミュージシャンかしら)
そんな意地悪な品定めを心の中でつぶやきながらも、美幸の表情からは、この日一日のしつこい疲れがすっと消えていた。
なんだか少しだけ温かい気持ちを胸に抱きながら、彼女は再び、家路へと歩き出すのだった。
翌日も、その翌日も、会社での退屈なデスクワークや上司の小言は相変わらずだった。
けれど、定時のチャイムが鳴り、丸ノ内線に飛び乗る美幸の胸の奥には、昨日とは違う小さな熱が灯っていた。
――あのへんてこな詩の続きは、あるだろうか。
新宿駅の雑踏に降り立った美幸の足は、無意識のうちに、あの黒い伝言板の隅へと向いていた。
そこに並んでいたのは、伝言でも連絡先でもない、一節の『詩』のような言葉だった。
『時代は音も立てず進んでいく、僕たちはもがきながらも生きていく』
誰に宛てたわけでもないその文字を読んだ美幸は、わざとらしく手を口元に当てて、クスクスと小さく微笑んだ。
まるで、自分と同じように時代に取り残され、不器用にもがいている「誰か」の呼吸が、そこから聴こえたような気がしたからだ。
(こんなところに詩を書くなんて、どこかの自意識過剰か、売れないアマチュアミュージシャンかしら)
そんな意地悪な品定めを心の中でつぶやきながらも、美幸の表情からは、この日一日のしつこい疲れがすっと消えていた。
なんだか少しだけ温かい気持ちを胸に抱きながら、彼女は再び、家路へと歩き出すのだった。
翌日も、その翌日も、会社での退屈なデスクワークや上司の小言は相変わらずだった。
けれど、定時のチャイムが鳴り、丸ノ内線に飛び乗る美幸の胸の奥には、昨日とは違う小さな熱が灯っていた。
――あのへんてこな詩の続きは、あるだろうか。
新宿駅の雑踏に降り立った美幸の足は、無意識のうちに、あの黒い伝言板の隅へと向いていた。



