初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―

 蒼生との特別養子縁組が成立してから、一か月あまり。
 一月二十三日。  玲と遙花は、結婚式当日を迎えた。

「遙ちゃん、綺麗!」
 玲の姉・瑠花は、遙花の衣装とメイクを担当した。レースと繊細なスパンコールをあしらったAラインドレスが、遙花によく似合っている。

「うん、我ながら完璧」
 ヘアセットを担当した玲の父・エディが、得意気に言った。
「あの……ヘアセットまでしていただいて、ありがとうございます」
「いや、僕がやりたかったんだ。花嫁さんのヘアセットって、初めてだから」
「そうなんですか? 全然そんなふうに見えないですけど」

「次は玲のところに行くから、また後でね」
「ありがとうございます、おとうさん」
「……!」
 エディが一瞬、言葉を失った。
「あの、何か?」
「いや、娘が一人増えたような気がして」
「え……」
「来年には瑠花も嫁ぐし、寂しくなると思っていたけど……それだけじゃないんだなって」
 エディは優しく微笑んだ。
「今日の主役は君たちだ。これでもかってくらい、祝福されてきなさい」
「はい」

 一方、玲は。
「玲、緊張してるね」
「うるさい」
「さっき遙ちゃんのヘアセットしてきたよ」
「え、父さんが?」
「他に誰がいる?」
「聞いてないし」
「言ってないからね」
「うざ」
「ちなみに、蒼生君のもやってきた」
「は?」
「『ぼく、リングボーズするの』だって」
「ぶっ!」

 リングボーズ。
 今日一番のパワーワードだな、と玲は思った。
 蒼生のリングボーイ姿に泣く予定だったが、少々予定が狂いそうだ。
「蒼生君、可愛すぎる」

 *

 支度を終えた二人のファーストミート。
「玲君……」
「……」
 遙花の花嫁姿を見た途端、玲の瞳が潤んだ。
「え、ちょっと……」
「無理……」
「何が?」
「遙花さんが、綺麗すぎて……」
「まだ式始まってないんだけど」
「それでも無理!」
 玲は顔を覆い、遙花を直視できない。

「ほら、新郎が先に行かなきゃなんだから」
 遙花は鏡に映る自分の姿を見つめた。
「私も、一つ夢が叶った」
「え?」
「ウェディングドレス」
 玲が顔を上げる。

「私、前の結婚では式を挙げなかったから。ドレス、初めて着たの」
「そうだったんだ……」
「できれば、両親にも見せたかったけど。仕方ないよね」
「遙花さん……」
 疎遠になっていても、遙花にとっては実の両親。 晴れ姿を見せたいという願いを、玲には否定できなかった。

「……まだ、わからないよ」
「え?」
「来てくれる可能性も、ゼロじゃない」
 玲は遙花のベールを整えた。
「まあ、僕が遙花さんの晴れ姿を独り占めするのもあり、かな」
「玲君……」
「すごく、綺麗だよ」
 玲は、はにかむように微笑んだ。
「ありがとう、玲君」

  ☆

 結婚式の一か月前。
 遙花は、疎遠になっていた両親に電話をかけた。
 離婚と再婚、蒼生のこと。そして、結婚式への招待。

 しかし、返ってきたのは冷たい言葉だった。
「ほら、やっぱりうまくいかなかった」
「もう、お前が誰と結婚しようが関係ない。好きにしろ」
 蒼生についても。
「犯罪者の血が流れている子を、孫だとは思いたくない」 「これからも会うつもりはない」
 玲はたまらず、電話を代わった。

「初めまして。このたび、遙花さんと結婚いたしました、神城玲と申します」
「あんたが娘の再婚相手か」
「はい」
「娘には、人を殺そうとした男の子どもがいる。それでも可愛がれるのか?」
「もちろんです。僕は蒼生君の父親ですから」
「……何?」
「今月、特別養子縁組の審判が確定して、法律上も親子になりました」
「君は、まだ若いだろう。なぜ、わざわざ子持ちの娘を……」
「僕が遙花さんと蒼生君を愛しているからです」
 玲は迷わず答えた。
「子どもを育てるというのは、並大抵のことではないぞ。血のつながらない子ならなおさらだ。その子の人生を背負う覚悟がなければ、親は務まらない」
「……僕はそう思いません」
「何故だ?」
「一人で背負う必要はないからです」
 玲は静かに続けた。
「親としての責任を放棄するつもりはありません。でも、僕には遙花さんがいます。僕たちは二人で蒼生君を育てていくんです。今までも、これからも」
「……」
「それに、血のつながりがなければ子どもを愛せないとお考えの人に、親としての責任を説かれるいわれはないです」
「な……!」
「僕は蒼生君と血がつながっていません。でも、赤ちゃんの頃から育ててきました。今も、これからも、僕の大切な息子です」
 玲は一呼吸置いた。

「対してあなた方は、血のつながった蒼生君を、実父が犯罪を犯したという理由で受け入れられないと言う。それって、血のつながり……関係あります?」
「それは……」
「血のつながりがあるからこそ、受け入れがたいこともある。それは理解できます。でも、そもそも子どもには……何の罪もない」
「……」
「蒼生君は、もう三歳です。初めて歩いた日なんて、僕、泣きましたからね。そのあと『ぱぱ』って呼んでくれて。そりゃもう、嬉しかったですよ」
「君は、私たちよりも……その子の成長を見てきたんだな」
「はい。とても可愛いですよ」
 玲は声を和らげた。
「そうだ。僕たち、今度結婚式を挙げるんです。蒼生君にはリングボーイをやってもらう予定で」
「そうか……」
「僕の顔は、ついでで構いません。でも、親としての責任をそこまで重く考えていらっしゃるなら……」
 玲は、はっきりと告げた。
「まずは、ご自身の娘が選んだ人生を、見に来ていただけませんか?」
 しばしの沈黙。

「……少し、考えさせてくれ」

  ☆