お母さん、そこにいるの?

午前二時十三分。
私は物音で目を覚ました。

「……ゆい」

誰かが私の名前を呼んだ気がした。
寝ぼけていた私は、布団の中で目をこすった。

「ゆい」

今度ははっきり聞こえた。
声は玄関の方からだった。
私は時計を確認した。
午前二時十五分。
こんな時間に誰だろう。

「ゆい、開けて」

女の人の声だった。
しかも、聞き覚えがある。
母の声にそっくりだった。
私はベッドから起き上がった。

「お母さん……?」

そう言いかけて、昼間のメッセージを思い出した。

『夜中に誰かが名前を呼んでも返事しないこと』
私は口を閉じた。

玄関から、また声がした。

「ゆい、お母さんだよ」

やっぱり母の声だ。
でも、両親は今日、海外へ出発したばかりだ。
こんな時間に帰ってくるはずがない。
私はスマホを手に取り、母に電話をかけようとした。
その瞬間。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
画面を見ると、玄関の前に誰かが立っている。
顔は暗くてよく見えない。

「ゆい、お願い。開けて」

声が震えている。
私は怖くなり、母にメッセージを送った。

『今、玄関に誰かいる』

すると、すぐに返信が来た。

『絶対に開けないで』
『誰?』
『警察に電話して』
『お母さんの声がする』

既読がついた。
少しして、母から電話がかかってきた。
私はすぐに出た。

「もしもし!」
『ゆい?』
「お母さん!玄関にいるんだけど!」
『落ち着いて。絶対に玄関を開けちゃだめ』
「でも、お母さんの声がするよ!」

母は少し黙った。
そして、小さな声で言った。

『……ゆい。今、玄関にいる人は誰?』
「だから、お母さんでしょ?」
『違う』

母の声が震えた。

『私、今あなたの家の中にいるの』