お母さん、そこにいるの?

高校二年生の春、私は初めて一人暮らしを始めた。
両親が仕事の都合で海外へ行くことになり、私は日本に残ることを選んだ。
学校を転校したくなかったし、何より自分の家から通いたかった。
両親は最初こそ反対していたけれど、最終的には近所に住む母の妹、つまり叔母が定期的に様子を見に来てくれることを条件に許してくれた。
引っ越しの日、母は何度も私に言った。

「夜は必ず玄関の鍵を閉めること」
「窓も全部確認するのよ」
「知らない人が来ても絶対に開けちゃだめよ」
「何かあったら、すぐ電話するのよ」
「分かってるってば」

私は笑いながら答えた。
母は少し心配しすぎだと思う。
その日の夜、両親は空港へ向かった。
家に一人きりになるのは初めてだった。
最初は少し寂しかったけれど、好きな時間にお風呂に入れるし、夜更かしもできる。
思っていたより快適だった。
午後十時。
私はベッドに寝転がり、スマホを見ていた。
すると、母からメッセージが届いた。

『ちゃんと鍵閉めた?』
『閉めたよ』
『窓も全部確認してね』
『分かったって笑』
『あと、夜中に誰かが名前を呼んでも返事しないこと』

私は思わず笑ってしまった。

『なにそれ、怖い話?』

母からの返信はすぐには来なかった。
数分後、ようやく届いた。

『冗談じゃないからね』

少し変だと思った。
でも、きっと心配性な母のことだ。
私はスマホを置き、眠りについた。