「今日はごちそうさまでした。美味しかったです」
私は、颯さんに頭を下げた、
テムズ川のほとりに出ると、美しい夜景が広がった。
ライトアップしたタワーブリッジの光が水面に揺れて、宝石を散りばめたように輝いている。
颯さんと訪れた星付きのレストランは、ロンドンの夜景を楽しめるうえに、料理も美味しかった。
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ」
「それはもう!」
私は、胸の前で両手の指を組んだ。
「さっそく会社に提案して、ツアーに組み込めないかと……あっ」
思わず口をつぐんだが、颯さんはもう笑っていた。
「すみません。また仕事のことを考えていました」
「かまわない。美桜さんのそういうところ、好きだから」
「……!」
不意打ちの「好き」に返事ができなくて、うつむいた。
耳が熱い。
川沿いのベンチに並んで座ると、夜風が火照った頬を涼やかに撫でていく。
目の前を、ナイトクルーズの遊覧船がゆったりと通り過ぎた。
「今日は、これをきみに渡そうと思ってね」
ジャケットの内ポケットから颯さんが取り出したのは、小さな白い箱だった。
「開けてみて」
促され、蓋を開ける。
「わ……」
私は思わず目を見張った。
深い青のサファイアを、ダイヤモンドが取り囲むプラチナのネックレス。
「きれい……」
神々しいほどの青には見覚えがあった。
――シャルトル大聖堂。
サファイアは、印象的なステンドグラスの輝きをそのまま閉じ込めたような青だった。
「シャルトル・ブルーみたい……」
呟くと、颯さんが微笑んだ。
「俺もそう思ったよ。昔からこの大聖堂の青が好きでね。今は、美桜さんと出会った場所だから、もっと好きになった」
彼は私の手元にあるネックレスに視線を落とした。
「この色を見た時、きみに贈りたいと思ったんだ」
胸が甘く疼いて痛いくらいだった。
私との出会いを、こんな風に心に留めていてくれたなんて。
けれど、私は首を振った。
「……こんな高価なアクセサリー、いただけません」
箱を閉じると、颯さんは眉を下げた。
「俺は、嫌われているのかな?」
「違います。そうじゃなくて」
もらう理由がない、と言いかけた時、彼が私のほうに身を向けた。
彼の整った顔が間近になる。
「美桜さん」
颯さんが切れ長の目を細めた。
「きみが好きだ。……付き合ってほしい」
心臓が大きく跳ねた。
……本当に?
真剣なまなざしに、颯さんもまた私を想ってくれているのだと実感する。
胸が嬉しさに満たされた。
でも。
彼の気持ちを受け入れたその先は?
彼は、いずれは東亜グループのトップに立つ人だ。
生きてきた軌跡も、これから歩むであろう道も、あまりに違う。
颯さんを好きだからこそ、不安も大きく、簡単には答えられなかった。
「少し……考える時間をもらえませんか」
「わかった。美桜さんがちゃんと考えて出した答えを聞けるまで、待つよ」
颯さんは、私を責めることも、理由を問いただすこともしなかった。
あくまで私の気持ちを尊重してくれる彼の誠実さに、改めて、この人を好きだと思う。
「ただ、そのネックレスは持っていて欲しい。俺がいない空の下でも、きみを守ってくれるように」
「……颯さん……」
私は、手の中の小箱を両手で包む。
テムズ川の川面に、光が揺れている。
彼への想いがある。
けれど、私の心もまた、ゆらゆらと定まらなかった。
私は、颯さんに頭を下げた、
テムズ川のほとりに出ると、美しい夜景が広がった。
ライトアップしたタワーブリッジの光が水面に揺れて、宝石を散りばめたように輝いている。
颯さんと訪れた星付きのレストランは、ロンドンの夜景を楽しめるうえに、料理も美味しかった。
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ」
「それはもう!」
私は、胸の前で両手の指を組んだ。
「さっそく会社に提案して、ツアーに組み込めないかと……あっ」
思わず口をつぐんだが、颯さんはもう笑っていた。
「すみません。また仕事のことを考えていました」
「かまわない。美桜さんのそういうところ、好きだから」
「……!」
不意打ちの「好き」に返事ができなくて、うつむいた。
耳が熱い。
川沿いのベンチに並んで座ると、夜風が火照った頬を涼やかに撫でていく。
目の前を、ナイトクルーズの遊覧船がゆったりと通り過ぎた。
「今日は、これをきみに渡そうと思ってね」
ジャケットの内ポケットから颯さんが取り出したのは、小さな白い箱だった。
「開けてみて」
促され、蓋を開ける。
「わ……」
私は思わず目を見張った。
深い青のサファイアを、ダイヤモンドが取り囲むプラチナのネックレス。
「きれい……」
神々しいほどの青には見覚えがあった。
――シャルトル大聖堂。
サファイアは、印象的なステンドグラスの輝きをそのまま閉じ込めたような青だった。
「シャルトル・ブルーみたい……」
呟くと、颯さんが微笑んだ。
「俺もそう思ったよ。昔からこの大聖堂の青が好きでね。今は、美桜さんと出会った場所だから、もっと好きになった」
彼は私の手元にあるネックレスに視線を落とした。
「この色を見た時、きみに贈りたいと思ったんだ」
胸が甘く疼いて痛いくらいだった。
私との出会いを、こんな風に心に留めていてくれたなんて。
けれど、私は首を振った。
「……こんな高価なアクセサリー、いただけません」
箱を閉じると、颯さんは眉を下げた。
「俺は、嫌われているのかな?」
「違います。そうじゃなくて」
もらう理由がない、と言いかけた時、彼が私のほうに身を向けた。
彼の整った顔が間近になる。
「美桜さん」
颯さんが切れ長の目を細めた。
「きみが好きだ。……付き合ってほしい」
心臓が大きく跳ねた。
……本当に?
真剣なまなざしに、颯さんもまた私を想ってくれているのだと実感する。
胸が嬉しさに満たされた。
でも。
彼の気持ちを受け入れたその先は?
彼は、いずれは東亜グループのトップに立つ人だ。
生きてきた軌跡も、これから歩むであろう道も、あまりに違う。
颯さんを好きだからこそ、不安も大きく、簡単には答えられなかった。
「少し……考える時間をもらえませんか」
「わかった。美桜さんがちゃんと考えて出した答えを聞けるまで、待つよ」
颯さんは、私を責めることも、理由を問いただすこともしなかった。
あくまで私の気持ちを尊重してくれる彼の誠実さに、改めて、この人を好きだと思う。
「ただ、そのネックレスは持っていて欲しい。俺がいない空の下でも、きみを守ってくれるように」
「……颯さん……」
私は、手の中の小箱を両手で包む。
テムズ川の川面に、光が揺れている。
彼への想いがある。
けれど、私の心もまた、ゆらゆらと定まらなかった。



