子ども食堂社員の年の差恋愛

火曜日と金曜日が子ども食堂の日——今日は土曜日、佳純さんはお休みの日だ。
愛斗はゆっくりと道を歩いていた。
街路樹の葉がそよぐ通りを歩いていると、前方に見慣れた姿があった。
浅井佳純さんだ。
佳純さんは六十歳を超えているのに、背筋がまっすぐ伸びていて、いつも凛としている。
子ども食堂ではいつも先頭に立って指揮を執り、スタッフの誰かが迷ったりするとすぐに声をかけ、ときには厳しい言葉を返すこともある。
気が強く、周りとぶつかることだってある——だけど愛斗の前でだけは、その強い殻が少しだけ緩むのだ。
 あら、愛斗くん」
佳純さんが気づいて足を止めた。
その瞬間、彼女の足が道路の段差に引っかかり、体がぐらりと傾いた。
「っ——!」
愛斗は反射的に駆け寄り、腕を伸ばして彼女の腕をしっかりと支えた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう……。恥ずかしいわね、全然気づかなかった」
佳純さんは慌てて服を整えながらも、照れくさそうに笑う。その柔らかな笑顔は、食堂で見せる顔とはまた違う、愛斗だけが知っている表情だ。
二人はその場で立ち話を始めた。穏やかな時間が流れる中、突然愛斗のスマホが鳴り響いた。画面には「西野美波」と表示されている。
「電話、出ていいわよ。美波ちゃんでしょ?」
佳純さんが優しく促す。
愛斗はそっとスマホをワイシャツの内ポケットに戻した。
「いいんです。佳純さんといる時間のほうが大事だから」
佳純さんの目が、ふんわりと細まる。
「……ありがとう」
キスが終わってからも、愛斗は彼女の瞳を見つめていた。
「今日の服、とても似合っています。落ち着いた色合いで、佳純さんの雰囲気にぴったりです」
「ふふ、ありがとう。今日はちょっとおしゃれしてみたの」
二人は並んで歩き出した。愛斗の一歩先を歩く彼女の背中は、いつもより少しだけ肩の力が抜けているように見える。
そのとき、向こうから西野美波が歩いてきた。
彼女は愛斗の姿を見つけ、嬉しそうに手を振ろうとした——けれど、愛斗の隣に女性がいるのを見て、手が途中で止まった。美波は愛斗のことが好きだ。
だからこそ、二人が並んで歩いているのを見るのは、胸が締めつけられるほど辛かった。
だが愛斗も佳純さんも、それには気づいていない。
話に夢中で、すれ違う人の姿まで目に入らない。
近くのカフェに入る。窓際の席に座り、メニューを開く。
「何にしようかしら」
「佳純さんのおすすめ、教えてください」
注文を済ませ、運ばれてきた料理をゆっくりと味わいながら、いろいろな話をした。
子ども食堂のこと、最近見つけた本のこと、好きな音楽のこと——どんな話題でも、二人で話すと時間があっという間に過ぎていく。
「ごちそうさま」
会計を済ませ、店の外に出る。
「ごちそうさまでした。本当にありがとうございます」
別れ道で愛斗が頭を下げると、佳純さんは手を振りかけた。その瞬間、愛斗は思わず彼女の手を取っていた。
「あの……まだ一緒にいたいです」
佳純さんは少し驚いたように目を見開いた。だけどすぐに柔らかく微笑んで、うなずいてくれた。
「いいわよ。どこか行くの?」
「家まで送らせてください。それで……少しだけ話したいことがあります」
佳純さんの家までの道のりは、いつもより短く感じられた。玄関先で、愛斗は深呼吸をして彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
「佳純さん……僕、ずっと前から好きです。年の差があるのはわかっています。それでも、あなたのことが大好きです。僕と一緒にいてくれませんか?」
佳純さんは目を伏せ、それからゆっくりと愛斗の手を両手で包み込むように握ってくれた。
「愛斗くん……私なんかでよければ、これからもそばにいさせてね」