「あ〜ぁ……降ってきちゃった」
菜月は、雨空を恨めしそうに見上げる。
「どうしよう、せっかく早く上がれたのに……」
夕方。
手頃な軒下で、彼女は雨宿りしていた。
おかげで、濡れずには済んでいた。
今日は、グリーンのスウェットの上着に、グレーのパンツスタイルだった。
髪は、青いシュシュでポニーテールにしている。
……最近、直哉さん、来ないな……。
ふと、思う。
いきなり好きだと言われたときは、驚いた。
特に、彼が嫌いだとか、他に好きな人がいるというわけではなかった。
「ちょっと、もったいなかったかな……」
かっこいい人だった。
それに、お客さんが一人減ってしまった。
「彼氏かぁ……もう、しばらく居ないなぁ。
最後につきあったのは……」
そんなことを考えていたときだった。
傘を、差し出された。
直哉は、迷っていた。
コーヒーショップに行くか、行かないか。
気まずかったので、数日足が遠のいてしまっていた。
だが、やはり、菜月に会いたかった。
彼女の、かわいくて優しい顔が思い浮かぶ。
また、話を聴いて欲しかった。
笑って欲しかった。
「よし!」
直哉は小さく握り拳を作る。
「っと、雨?」
雨粒が頬に当たった。
と思ったら、急に空が暗くなり、雨が強く降り出した。
直哉は、鞄から青い折り畳み傘を取り出し、差した。
響く雨音。
雨に煙る街。
何より、寒い。少し、震える。
しばらく歩くと、菜月が雨宿りをしていた。
驚いたが、直哉は、菜月に傘を差し出した。
二人は、同じ傘に入って、駅まで歩いた。
傘が、雨を弾く。
菜月は、直哉の肩口が雨に濡れていることに気づいた。
これでは、風邪を引きそうだ。
少し直哉に近づく菜月。
直哉の心臓の脈打つ速度が速くなる。
顔が熱いのが自分でもわかった。
──中学生か。俺は。
「菜月ちゃんは、おばあちゃんが大好きだったよね」
「はい……」
「覚えてる? お葬式のときのこと」
「はい」
「まだ、中学生だったよね。
それが、こんなに綺麗な女性になってるなんてね」
「……。いえ、そんなことないですよ」
「こないだは、急にあんなこと言ってごめんね」
「いえ……。あの、直哉さん。
もう、お店には、いらっしゃらないんですか?
私。待ってます! また、直哉さんが来てくれるの!」
「え……。それは、どういう意味……?」
駅に着いた。
「送ってくださって、ありがとうございました!」
菜月は、直哉からひらりと離れると、駅の方へ行ってしまった。
残された直哉は、呆然とする。
「あぁぁ……。菜月ちゃん、どういう意味?」
