「課長、どうしたんですか?」
美沙希が、デスクに着いた直哉の顔を覗き込んで言う。
「最近、表情が違いますよ」
ウインクばっちん、美沙希が笑う。
「いや、別に何も」
「本当ですか? 当てましょうか?
ずばり、女性関係!」
「ち、違うよ……」
直哉は、美沙希から目を逸らした。
でも、にやけてしまう。
美沙希も、メガネのブリッジを上げてにやにやした。
少し、気まずく、気恥ずかしかった。
スキップしそうな足取りで、給湯室まで行くと、ひとりで鏡を見る。
なんだか、はつらつとしている。
理由は自分でもわかった。
直哉は、今、恋をしている。
「菜月ちゃん……」
自分の話をよく聴いてくれ、優しく微笑んでくれる彼女。
コーヒーを淹れたり、食器を洗ったり、お客さんと話したり、レジに立ったり。
笑ったり、真剣な表情。
次第に気になって。目で追うようになった。
気づいたら、本気になっていた。
会うのが楽しみだった。
終われば、彼女に会えると思うと、自然と仕事に身が入った。
「あぁぁ、なんて、かわいいんだ!」
エプロン姿の天使に思えた。
天使の輪っかさえ、見える気がした。
「いらっしゃいませー!」
菜月がコーヒーショップで、出迎えてくれる。
その日、直哉は決めていた。
菜月に告白することを!
マスターが外した隙。
ちょうど、二人きりになった。
──キタ、キタ!
菜月を見て緊張する。それを誤魔化すように、コーヒーを二、三口
飲む。
直哉は意を決した。
「菜月ちゃん、いや──菜月さん。
好きです!
《《私と》》、つきあってください」
菜月はとても驚いた。
直哉が自分のことを好きだと言う。
──どうしよう?
しかし、想像できなかった。
彼と恋人同士になるなんて。
「ご、ごめんなさい! でも、お気持ちはとても、嬉しいです」
直哉は、衝撃で石のように固まった。
菜月は申し訳なさそうに、直哉を見た。
翌日。
「おぉっと、やば、危ない!」
会社で、パソコンの数値入力をミスしそうになる。
「おおお! ハンコ忘れるとこだった!
てか、あの書類はどこ?」
「どうしたんですか、課長?」
美沙希が寄ってくる。
「なんか、死者みたいな顔してますよ?」
「……ほっといてくれ」
「ははーん。なにかありました?」
顎に手を当て、なぜか目を輝かす美沙希。
「なんもないよ!」
つい、怒鳴りそうになった。
男子トイレの個室で、直哉は頭を抱えた。
──もう、帰りたい。てか、帰らせて……。
まさか、ふられるなんて……。
27年間の人生で、ふられたことは一度もなかった。
「あぁぁ、菜月ちゃん……!」
