真理と一緒に、登校する。

 車から、彼らが降りた瞬間。

「鹿島さまぁ~」

 突然、女生徒たちが、真理に向かって襲い掛かってくるではないか。

 その勢いに、早紀はぽいっちょと、群れから放り出された。

 いたた。

 何事かと、少し離れてその喧騒を見る。

 真理は、確かに綺麗ではあるが、学校でこんな歓迎を受けたのは初めてだ。

 毎日一緒に通っているのだから、確かだった。

「……おはようございます」

 異様な事態を見ていた早紀は、その声が自分に向けられたものだとは、すぐには分からなかった。

 何しろ、学校で彼女に声をかける人間など、皆無だからだ。

「え? あ? おはようございますっ」

 はっと気づいて、声の方を振り返る。

 ガラス玉のような目──零子、と呼ばれる女性だった。

 あ、トゥーイさんちの。

 階級など、よくわかっていないので、頭の中でそんな言葉を並べる。

 きょろきょろと周囲を見るのは、あの独特の目の男が、一緒にいるのではないかと思ったから。

「ご主人様なら…あちらに」

 手を捧げるように指す先には、やはり女生徒に囲まれるトゥーイの姿が。

 えーと。

「黒い涙が降りましたから…みな、喜んでいるのでしょう」

 他人事のように、零子はぼんやりと言葉にする。

 はあ、なるほど。

 痛みで余り覚えてはいないが、先日の初陣は、確か魔族側の勝利だったはず。

 確かに、涙が黒く染まっていた気がする。

「でも、女ばかりですね」

 早紀は、苦笑した。

 そんなに嬉しいのなら、男も来てよさそうなものだが。

 これではまるで、あの真理がアイドルのようだ。

 本人は、さぞや閉口していることだろう。

 そんな早紀の、何気ない言葉に。

「男は…子供を産めませんから」

 さらりと──零子は、恐ろしいことを口にしたのだった。